出版の進め方:届ける
電子書籍の価格の決め方:Kindleの価格設定とロイヤリティの考え方
電子書籍の価格は、「いくらにすれば売れるか」だけで決めると迷います。私が出版の相談を受けるときも、価格で止まってしまう方はとても多いです。この記事では、Kindleの印税(ロイヤリティ)の仕組みを公式情報で確認したうえで、価格を決めるための4つの視点と、変更するときの注意点を整理します。
結論:価格は「本の約束の大きさ」と「出す目的」で決める
先に結論です。価格は、安くすれば売れる、高くすれば価値が伝わる、という単純なものではありません。私は、次の2点から決めることをおすすめしています。
- その本が読者に約束していることの大きさ(悩みの深さ、得られる変化)
- あなたが電子書籍を出す目的(名刺代わり、集客の入口、専門書として届ける、など)
この2点が決まっていれば、価格は「その本の役割に合っているか」で判断できます。
Kindleのロイヤリティの仕組み
まず、価格を決める前提となる仕組みです。KDPのロイヤリティには、35%と70%の2つの選択肢があります。
| 項目 | 35%オプション | 70%オプション |
|---|---|---|
| 計算のもとになる金額 | リスト価格から付加価値税(消費税など)を除いた額 | リスト価格から付加価値税を除き、さらに配信コストを引いた額 |
| 対象地域 | すべての販売地域 | 対象の販売地域のみ(日本を含む) |
| 配信コスト | かからない | かかる(Amazon.co.jpは1MBあたり1円) |
| 主な条件 | 特になし | 実物版(紙の本)がある場合、それより20%以上低い価格にする、など |
日本で70%のロイヤリティを受け取るには、次の2つが必要です。
- KDPセレクトに登録していること
- 日本向けの70%の価格要件(最低リスト価格)を満たしていること
どちらかを満たさない場合は、35%になります。日本向けの具体的な価格の範囲は、公式ヘルプの価格に関するページで確認してください。この記事では、金額を断定しません。
配信コストの考え方
70%オプションでは、ファイルサイズに応じて配信コストが引かれます。Amazon.co.jpでは1MBあたり1円で、日本円の販売では10MB以上の本は配信コストが引かれない、と公式ヘルプに記載されています。文章中心の本は、ファイルが小さいため、配信コストはわずかです。
計算の例(仮の数字です)
わかりやすくするための仮の計算です。税を除いたリスト価格が1,000円、ファイルサイズが3MBの本だとします。
- 35%の場合:1,000円 × 35% = 350円
- 70%の場合:(1,000円 − 配信コスト3円)× 70% = 約698円
ロイヤリティの金額は、価格が同じでも選択肢によって大きく変わります。実際の金額は、税の扱いや販売地域によって異なります。
価格を決める4つの視点
仕組みを理解したら、次は価格そのものです。私は、次の4つの視点で考えます。
視点① 読者の悩みの大きさ
読者が抱えている悩みが深いほど、その解決に払ってもいい金額は大きくなります。「ちょっと知りたい」程度の話題と、「仕事や生活を変えたい」という話題では、読者の感じる価値が違います。
視点② 本のボリュームと情報の密度
文字数やページ数だけでなく、「その本でどこまで解決できるか」を見ます。入口を示す短い本と、手順や事例まで丁寧に書いた本では、同じ価格にはなりません。
視点③ あなたが電子書籍を出す目的
ここが一番大切です。目的によって、適した価格の考え方が変わります。
| 目的 | 価格の考え方 |
|---|---|
| 名刺代わりにしたい | 読者が手に取りやすい価格にして、読んでもらうことを優先する |
| 集客の入口にしたい | 手に取りやすさを重視し、次の行動(相談、講座など)に自然につなげる |
| 専門知識を届けたい | 内容の価値が伝わる価格にして、専門書としての位置づけを整える |
| 収益を重視したい | ロイヤリティの条件を理解したうえで、継続して売れる価格を探る |
視点④ 同じ分野の本との位置づけ
Amazonで同じテーマの電子書籍を見て、どんな価格帯が多いかを確認します。大切なのは「合わせる」ことではなく、「自分の本がどの位置にいるのか」を理解することです。ほかの本より高くするなら、その理由を読者に伝えられる内容が必要です。
価格ごとのロイヤリティを、並べて比べてみる
価格を決めるときは、頭の中だけで考えず、いくつかの価格で、受け取る金額を並べて見ると判断しやすくなります。次の表は、計算のしかたを示すための仮の数字です。税を除いたリスト価格で、ファイルサイズは3MB、70%オプションを選べる条件を満たしている、と仮定しています。
| 税を除いた価格(仮) | 35%の場合 | 70%の場合(配信コスト3円) |
|---|---|---|
| 500円 | 175円 | 約348円 |
| 1,000円 | 350円 | 約698円 |
| 1,500円 | 525円 | 約1,048円 |
※実際の販売価格や、受け取る金額は、税の扱い、販売地域、日本向けの価格要件によって異なります。この表は、考え方の例です。
この表から分かるのは、次の2点です。
- 同じ価格でも、35%と70%では、受け取る金額に大きな差が出る
- 価格を上げるときは、「読者に感じてもらえる価値が、その分あるか」を、同時に考える必要がある
金額の大小だけで決めず、「その本で、読者に何を届けたいのか」を軸にしてください。
KDPセレクトを選ぶかどうかの考え方
日本で70%のロイヤリティを受け取るには、KDPセレクトへの登録が必要です。ただし、KDPセレクトに入るかどうかは、ロイヤリティだけで決めるものではありません。
KDPセレクトに登録すると、その電子書籍は、Amazonでの独占的な配信が条件になります。他の電子書籍ストアでも売りたい場合は、この条件が目的に合うかを考える必要があります。独占の期間や、使える特典の内容は変わることがあるため、公式ヘルプで最新の条件を確認してください。
次の問いに答えると、判断しやすくなります。
- 読者に、主にどこで読んでもらいたいか
- 他のストアでも配信したい理由はあるか
- 70%のロイヤリティは、自分の目的に必要か
- 条件の変更や、更新の手間を続けられるか
どちらが正解、ということはありません。目的に合う選択をしてください。
価格を変えた記録をつける
価格は、あとから変更できます。そのときに、記録をつけておくと、変更の効果を振り返りやすくなります。次のような表を、手元のメモやスプレッドシートに作っておくのがおすすめです。
| 日付 | 変更前 | 変更後 | 変えた理由 | 変更後の気づき |
|---|---|---|---|---|
| 年月日 | 円 | 円 | 目的に合わせて、など | 見る数字、読まれ方など |
「理由」の欄を空けないことが大切です。理由のない変更が続くと、何が効いたのか、分からなくなります。
価格を決める手順
- 電子書籍を出す目的を、一文で書く
- 読者が得られる変化を、一文で書く
- 同じ分野の電子書籍の価格帯を、5〜10冊ほど見る
- ロイヤリティの選択肢(35%か70%か)を決める
- 仮の価格を決め、ロイヤリティの金額を計算する
- 目的に合っているかを確認し、最終の価格を決める
よくある失敗と対策
| よくある失敗 | 対策 |
|---|---|
| 不安から、極端に安くしてしまう | 本の約束の大きさに合った価格かを、一度見直す |
| ロイヤリティの条件を確認せず、設定してしまう | 設定前に公式ヘルプで、35%と70%の条件を確認する |
| 他の本の価格をそのまま真似する | 自分の本の目的と読者を軸に、価格を決める |
| 価格を何度も変えて、読者が混乱する | 変更は目的があるときだけにして、変更の理由を記録しておく |
| 実物版がある本で、価格の条件を見落とす | 紙の本がある場合は、20%以上低い価格にするなどの条件を確認する |
価格を変えるときの注意
公開後でも、価格は変更できます。ただし、次の点に注意してください。
- 反映までに時間がかかることがあるため、公式ヘルプで確認する
- 事前予約(プレオーダー)の期間中に価格を下げると、予約した読者には下がった価格が請求され、ロイヤリティも下がった価格で計算される
- Amazonが他の販売先の価格に合わせて、販売価格を下げる場合がある(価格マッチング)
- KDPセレクトの無料キャンペーンなど、ほかの施策と重なる時期は、売れ行きの見方が複雑になる
価格を変えたら、いつ・いくらに変えたか・なぜ変えたかを、簡単にメモしておくと、あとで振り返りやすくなります。
設定前の確認チェックリスト
- 電子書籍を出す目的を、一文で言えるか
- 読者が得られる変化を、一文で言えるか
- 同じ分野の価格帯を、確認したか
- 35%と70%の条件を、公式ヘルプで確認したか
- 70%を選ぶ場合、KDPセレクトと日本向けの価格要件を満たしているか
- 紙の本がある場合、20%以上低い価格になっているか
- 仮の価格でロイヤリティの金額を計算したか
価格を決めたあとは
価格が決まったら、本の企画、登録の手順、出版後の運用を確認しておくと、迷いが減ります。
- 電子書籍の企画の立て方:誰に何を伝える本にするか決める
- KDP登録手順:価格を入力する画面までの流れ
- 電子書籍の出版費用:費用と収益の見通し
- 電子書籍を出版したあとにすること:出版後の発信と運用
- 電子書籍の口コミと評判:口コミ・評判との向き合い方
よくある質問
電子書籍の価格は、安いほうが売れますか?
安いほうが手に取られやすいことはありますが、安いほど売れると決まっているわけではありません。本の約束の大きさと、読者の悩みの深さに合っているかが大切です。
70%のロイヤリティを選べば、必ず得ですか?
必ずしもそうではありません。日本で70%を受け取るには、KDPセレクトへの登録と価格要件が必要です。条件を満たせるか、KDPセレクトの独占配信が自分の目的に合うかを確認したうえで選んでください。
出版後に価格を変えても問題ありませんか?
変更自体はできます。ただし、事前予約中の価格変更など、扱いが特別な場合があります。変更の目的を決めて、公式ヘルプで条件を確認してから行ってください。
無料にすることはできますか?
KDPの設定では、無料にする方法に条件があります。無料にしたい場合は、公式ヘルプで現在の方法を確認してください。無料でも、読まれることで目的が達成できる場合は選択肢になります。
まとめ
電子書籍の価格は、ロイヤリティの仕組みを理解したうえで、本の約束の大きさと出す目的から決めます。
- ロイヤリティは、35%と70%の2つがある
- 日本で70%を受け取るには、KDPセレクトと価格要件が必要
- 価格は、悩みの大きさ・ボリューム・目的・同じ分野の位置づけで考える
- 変更するときは、目的と理由を記録しておく
価格に迷ったときは、まず「この本は何のために出すのか」に戻ってください。
出典
- Amazon KDP ヘルプ「ロイヤリティ」(確認日:2026年10月23日)
KDPセレクトに入るかどうかは、KDPセレクトに入るかどうかの考え方で整理しています。