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電子書籍の原稿の書き方:実例が足りないときに、本を薄くしない5つの工夫

公開:2026年10月23日 / 執筆:増田裕一(株式会社ヒカリスター出版)

原稿を書き始めてしばらくすると、手が止まります。理由で一番多いのは、「自分には、書けるほどの実例がない」という思いです。この記事では、体験談や実績が足りないと感じるときでも、本を薄くせず、誠実に書き進めるための5つの工夫を、私の考えとして整理します。

結論:実例が足りないときは、実例を足すのではなく、書き方を変える

先に結論です。実例が足りないとき、無理に体験談を盛る必要はありません。盛った話は、読者にもすぐに伝わります。私は、次のように考えています。

  • 実例がないなら、「実例がない」ことを前提にした書き方に変える
  • 事実と、自分の考えを、はっきり分けて書く
  • 読者が自分で試せる形(手順、問い、チェック)にして渡す

実例が足りないと感じる、3つの正体

「書けない」と感じるとき、実際には次のどれかであることが多いです。

感じていること実際に起きていること
体験談がない体験はあるが、「話すほどではない」と思って選んでいない
実績が少ない数字や肩書きで語ろうとして、考え方で語る道を忘れている
専門家ではない専門家として書こうとして、「学んでいる途中の人」として書く道を忘れている

体験が本当にないテーマなら、そのテーマで書くべきかを、一度考え直してもよいと思います。あるのに選んでいないだけなら、次の工夫が使えます。

実例が足りないときの5つの工夫

工夫① 一般例と仮定の例を、そう明記して使う

実在の誰かの話にしなくても、「たとえば、こんな場合を考えてみます」と、仮定の例で十分に伝わります。大切なのは、仮定の例を、実際にあった話のように書かないことです。

「(仮の例です)」「一般的な例として」と一言添えるだけで、読者の信頼は守れます。

工夫② 事実と、自分の考えを分ける

実例が少ないとき、事実と意見が混ざりやすくなります。次のように書き分けると、文章に誠実さが出ます。

  • 事実:「KDPには、35%と70%のロイヤリティの選択肢があります」
  • 私の考え:「私は、まず本の目的を決めてから価格を考えたほうが、迷いにくいと思います」

この分け方は、他の人の著作や調べた情報を引用するときにも使えます。原典の著者が言っていることと、自分の見解は、別の文として書きます。

工夫③ 「考えた過程」を書く

結果や実績が少なくても、「何が気になったか」「どこで見方が変わったか」は書けます。読者が知りたいのは、立派な結果だけでなく、「この人は、どう考えて、その答えにたどり着いたのか」でもあります。

ただし、過程を書くときも、実際になかった気づきや出来事を作らないでください。書けるのは、本当にあった迷いと、本当に考えたことだけです。

工夫④ 専門用語は、一度かみ砕いてから使う

実例が少ない分、読者が置いていかれる文章になりがちです。専門用語を使うときは、初めて出てくるところで、一文で言い換えます。

「ロイヤリティ(本が売れたときに、著者が受け取る割合)」のように、かっこ書きで補うだけでも、読みやすさは大きく変わります。

工夫⑤ 読者が試せる形にして渡す

実例の代わりに、手順、問い、チェックリスト、書き込める表を入れると、本の厚みが出ます。読者が自分で手を動かせるページは、体験談とは別の価値として、読後に残ります。

一つの章を組み立てる型

実例が少ないときほど、章の中の組み立てを決めておくと、書く手が止まりにくくなります。私は、次のような型をおすすめしています。

順番書くこと例
1読者の疑問を、一文で示す「価格は、どう決めればよいのでしょうか」
2結論を、先に一文で言う「本の目的から決めると、迷いにくくなります」
3事実を書く(調べたこと)「ロイヤリティには、2つの選択肢があります」
4自分の考えを書く「私は、まず目的を決めたほうがよいと考えています」
5読者が試せる形にする「次の3つを、紙に書いてみてください」
6次の章へのつなぎを書く「目的が決まったら、次は読者を絞ります」

すべての章をこの形にする必要はありません。ただ、「この章は、いまどこを書いているのか」が分かるだけで、途中で迷うことは減ります。

具体例:同じ内容を、盛らずに書き直す

次の2つの文章は、どちらも架空の例です。同じことを伝えようとしていますが、書き方が違います。

盛ってしまった例(仮の例です)

「私のお客様の多くが、この方法で大きな成果を出しました。」

盛らずに書き直した例(仮の例です)

「この方法は、案内文を点検するための一つの考え方です。使える場面と、使えない場面があるので、次の3点を確認してから試してみてください。」

書き直した例には、実在しない成果が入っていません。そのうえで、読者に何をしてほしいのかが、はっきり分かります。実例が足りないとき、無理に結果を足すより、読者の次の一歩を具体的にするほうが、本の価値を保てます。

引用するときの基本

他の人の本や記事を参考にするときは、「参考にする」と「引用する」を分けて考えます。

  • 参考にする:内容を理解したうえで、自分の言葉で書き直す
  • 引用する:原文をそのまま載せる。引用であることが分かる形にして、出典を書く

日本の著作権法では、引用が認められる条件が定められています。一般に、引用部分が明確に区別されていること、自分の文章が主で引用が従になっていること、出典が明示されていることなどが大切だと説明されています。実際に引用する場合は、文化庁などの公的な説明で、最新の考え方を確認してください。

また、引用した部分の「原典の著者の見解」と、それに対する「自分の見解」を、別の文として書き分けます。読者が、誰の考えなのかを取り違えないようにするためです。

書く時間をつくる、小さな工夫

原稿が進まない理由が、「内容」ではなく、「時間」のこともあります。

  • 1日に書く量を小さく決める(たとえば、見出し1つ分)
  • 書く時間帯を、毎日同じにする
  • 書き始める前に、その日に書く箇所の一文メモを置いておく
  • 途中で調べ物をしたくなったら、「あとで調べる」とだけ書いて、先へ進む
  • 書き終えたあと、次に書くことを一行だけ残して終わる

どれも、「書き始めるまでの手間」を減らす工夫です。まずは、1日10分でも、毎日続けられる形を探してみてください。

見直しは、3回に分ける

書き終えたあとの見直しは、一度に全部やろうとすると、疲れて見落としが増えます。私は、3回に分けることをおすすめします。

  1. 内容の見直し:約束(読者が得られること)に、答えられているか。入れすぎ、足りなさがないか
  2. 文章の見直し:事実と意見が分かれているか。言い過ぎや、保証の表現がないか。専門用語に説明があるか
  3. 体裁の見直し:段落の長さ、見出しの流れ、誤字脱字、リンクの確認

内容の見直しを先にやる理由は、文章を磨いたあとで内容を削ると、手間が無駄になるからです。順番を決めておくだけで、無駄な作業が減ります。

原稿を書き進める手順

  1. 本の約束(読者が得られること)を一文で書く
  2. 章ごとに、「伝えたい結論」を一文で書く
  3. 各章に、事実・自分の考え・読者が試せる形を、それぞれ最低1つ入れる
  4. 実例が必要な箇所に、一般例か仮定の例を置き、そう明記する
  5. まず最後まで書き切る。直すのはそのあと
  6. 声に出して読み、盛っている部分、断定しすぎている部分を削る

よくある失敗と対策

よくある失敗対策
実例がなく、抽象論ばかりになる一般例か仮定の例を入れ、そう明記する
実例を盛ってしまう本当にあったことだけを書く。足りない分は、仮定の例で補う
事実と意見が混ざる「事実」「私の考え」を、文を分けて書く
専門用語が説明なしで出てくる初出で一文の言い換えを入れる
完璧を目指して進まないまず最後まで書く。見直しは別の作業にする

読みやすさの確認チェックリスト

  • 段落が長くなりすぎていないか(スマホで読む人が多い)
  • 1つの段落に、言いたいことが1つになっているか
  • 事実と意見が、読んで区別できるか
  • 数字や実績に、確認できる根拠があるか
  • 保証や、「必ず」「絶対」のような言い方を使っていないか
  • 見出しだけを読んでも、流れがわかるか

次に読む記事

よくある質問

体験談がまったくなくても、本は書けますか?

書けます。体験談の代わりに、事実の整理、考えた過程、読者が試せる手順で本を作る方法があります。ただし、体験がないことを、あるように書かないことが大切です。

他の人の本を参考にしてもいいですか?

参考にすること自体は問題ありません。ただし、原典の言葉をそのまま使う場合は引用の形にし、原典の著者の考えと、自分の考えを分けて書いてください。

文字数が足りないときは、どうすればいいですか?

文字数を満たすために内容を薄めるより、読者の疑問を一つずつ足すほうが、本としての厚みになります。短くても、読者の悩みに答え切れていれば、本として成り立ちます。

専門家でなくても書いていいのでしょうか?

書けます。ただし、専門家のように振る舞うのではなく、「学んだことを整理して伝える人」として、できることとできないことを正直に書くほうが、信頼されやすいと私は考えています。

まとめ

  • 実例が足りないときは、実例を盛るのではなく、書き方を変える
  • 一般例や仮定の例は、そう明記して使う
  • 事実と、自分の考えを、文を分けて書く
  • 考えた過程と、読者が試せる形で、本の厚みを出す
  • まず最後まで書き切る

原稿が止まったときは、「この本で、読者に何を持ち帰ってほしいのか」に戻ってみてください。

本にしたいことが、まだ形になっていなくても

すぐに決める必要はありません。何を、誰に伝えたいのか。その整理から、一緒に考えることもできます。

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